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「獣医学つれづれ草」 第7話 動物用医薬品の安全性確保のための制度を確認する 田村 豊 先生

動物用医薬品の安全性確保のための制度を確認する

酪農学園大学名誉教授 田村 豊

今さら現場で活躍する獣医師の皆さんにお知らせするには気がひけるのですが、もしかして新人の方が読んでいるかもしれませんし、知識があやふやの方もおられるかもしれません。そこで現在、世界的にワンヘルスによる薬剤耐性菌対策が進められている中で、今一度、わが国の動物用医薬品の安全性確保のための制度について、確認の意味で紹介したいと思います。

図1に制度の全体像を示します。家畜に用いる動物用医薬品は「医薬品、医療機器等の品質・有効性及び安全性の確保に関する法律」(薬機法)第14条により品質・有効性・安全性・残留性を審査し農林水産省大臣の承認を得なければなりません。承認に当たっては臨床試験や残留試験など様々なデータに基づいて国の厳格な審査を受けることになります。この審査過程で適応症や用法・用量や休薬期間が決定します。また、薬機法83条の4において、動物用医薬品が適正に使用されなければ対象動物の肉、乳その他の食用に供される生産物に残留し、人の健康を損なう恐れのあるものについては使用基準が定められています。具体的には使用規制省令(https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=425M60000200044)により、家畜に使用する動物用医薬品が承認されるときに使用動物、用法及び用量、使用禁止期間が定められています。最近承認された家畜に使用する動物用医薬品は全て使用規制省令に収載されていますが、過去に承認された製剤の中には使用規制省令に収載されず、使用禁止期間ではなく休薬期間だけ設定されているものも存在します。使用禁止期間に違反すると薬機法により罰則が適応されるのに対し、休薬期間に違反すると薬機法の適応外ですが、基準値を超えて食品に残留した場合は食品衛生法違反(回収や廃棄)になる可能性があります。診療上獣医師が必要と判断した場合は、使用基準に準拠せずに動物用医薬品を使用することができますが、獣医師は農家に対して出荷制限期間指示書を発行する必要があります。人体用医薬品を家畜に使用する時も同じ対応が求められます。これらの場合、家畜における残留に関するデータは全くありませんので、使用した獣医師が自分の判断で出荷制限期間を設定する必要があります。例えば決められた用量の2倍量投与したので使用禁止期間を2倍にするというほど単純な話でないないことから、できるだけ長くに設定することが必要です。理由は畜産物に残留が明らかになった場合、3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金に処され、またはこれを併科するとの罰則が適応されるからです。抗菌薬の適応外使用は残留性のみならず、薬剤耐性菌の選択圧にもなることも留意すべきです。

さらに、①獣医師の専門的な知識と技術を必要とするもの、②副作用の強いもの、あるいは③病原菌に対して耐性を生じやすいものは要指示医薬品に指定され、その使用に当たっては獣医師の特別な指導が必要とされています。例えば抗菌薬は③に該当しますので、水産用など一部の例外はありますがほとんどが要指示医薬品になり、専門的な知識を持つ獣医師の指導がなければ使用することができないのです。要指示医薬品制度をまとめたのが図2になります。獣医師でない農家が勝手に抗菌薬を使用することは薬機法違反になります。水産用抗菌薬が要指示医薬品から外れた理由は、当時、水産分野を専門とする獣医師が極めて少なかったことです。しかし、現在では大学での獣医学教育で魚病学は必須科目ですし、少ないながら水産専門の獣医師が存在し、薬剤耐性菌が生態系で蔓延する状況を考えると、海外と同様に水産用抗菌薬も要指示医薬品とするべきと考えています。また、要指示医薬品は獣医師法の要診察医薬品に該当するため、獣医師が指示書を農家に発行する場合は獣医師法18条により獣医師が自ら診察することが求められています。感染症は時間単位で変化しますし、それにより使用する抗菌薬も異なることから、獣医師の専門的知識は必要不可欠であり、農家からの電話で自ら診察しないで指示書を発行することなどもっての外の行為なのです。最近聞いた話ですと農家からの依頼で小動物専門の獣医師が家畜に使用する抗菌薬について指示書だけを書いている実態があると聞き驚いた次第です。

以上、動物用医薬品の安全性確保のための制度について説明してきました。獣医師として基本的な知識であり、大学教育の中でも重要事項として全ての大学で教育し、臨床獣医師に対しては研修やセミナーなどで繰り返して制度について説明してきています。しかし、非常に残念なことに動物用医薬品の不適切な販売・使用で摘発される獣医師が今だいることも事実です。例えば図3に抗菌薬に関する具体的な摘発事例を示しました。事例1は医薬品販売業の許可を受けずに、要指示医薬品であり要診察医薬品である抗菌薬を6回にわたり対象動物を診察せずに販売したものです。この場合、お金の授受は関係なく、無料であっても反復継続していれば業と見なされて薬機法違反で摘発されます。また、獣医師法にも違反しています。事例2は事例1のつじつまを合わせるためと思われますが、診療行為をしていないにも係わらず、診療簿に虚偽の記載をしたものです。これらは獣医師の信用を貶める行為であるとともに、国民の間でいまだに獣医師の社会的地位が医師ほど高まらない理由に思えてなりません。獣医療に関する唯一の専門家である獣医師には高い倫理観とプライドを持っていただき、真に国民から尊敬される存在になって欲しいと願っています。

 

 

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