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「獣医学つれづれ草」 第14話 薬剤耐性菌に挑む!-新たな薬剤耐性対策アクションプランが始動- 田村 豊 先生

薬剤耐性菌に挑む!-新たな薬剤耐性対策アクションプランが始動-

酪農学園大学名誉教授 田村 豊

 

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)などの多剤耐性菌感染症は、じわじわと我々の健康を脅かしており、医療において新型コロナウイルス感染症にも匹敵する脅威となっています。世界的には2019年に薬剤耐性菌が原因で127万人が死亡したと推定されています1)。推定方法が異なるので単純に比較できませんが、2014年に70万人と推定されていましたので、実に5年間で60万人が増加したことになります。このような状況を基に、世界保健機関(WHO)で2015年に5つの戦略的目標を掲げた抗菌薬耐性グローバルアクションプラン(WHOアクションプラン)が採択されました。これには加盟国がWHOアクシヨンプランに準じて、2年以内に自国のアクションプランを制定することが明記されています。そこで2016年にわが国の「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン(2016-2020)」2)(前アクションプラン)が制定されました。医療分野や動物分野で様々な成果を上げて、次のアクションプランに引き継ぐ予定でしたが、新型コロナウイルス感染症の蔓延により改訂作業が大幅に遅れ、2023年4月7日に今後5年間で実施すべき事項をまとめた「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン(2023-2027)」2)(改訂アクションプラン)が公表されました。そこで獣医師にとっても関連の深い前アクションプランでの動物分野における成果を紹介するとともに、改訂アクションプランの概要を紹介したいと思います。

最初に前アクションプランの動物分野における6つの目標に係る成果を紹介したいと思います3)。まず目標1:普及啓発・教育ですが、農林水産省のwebサイトを充実させたことが上げられます。中でもAMRに関する基礎知識を抗菌薬の使用者である生産者や獣医師向けに提供し、抗菌薬の慎重使用に資するためのリーフレットや抗菌薬治療ガイドブックなどが公表されています。また、普及啓発のための様々な動画を作成して公表されています。次いで目標2:動向調査・監視ですが、前アクションプランでの最大の成果は、これまで世界的にも不十分であった小動物診療施設に来院したペット(イヌとネコ)と養殖魚由来の薬剤耐性菌調査を2017年度から開始したことです。さらにAMR対策を考える上で重要な抗菌薬の使用量に関しても、2016年度から小動物診療施設へ販売された抗菌薬に関する調査が行われました。これらの両調査は世界に先駆けた取り組みになっています。目標3:感染予防・管理では、農場での感染症を予防して抗菌薬の使用機会を抑制するために、動物用ワクチンの開発・実用化のための事業を開始しています。目標4:適正使用では、抗菌性飼料添加物について、食品安全委員会でヒトの健康へのリスクが無視できると評価されたもの以外は指定を取り消すとの指針を決定しました。これはヒトへのリスクが少しでも認められれば使用禁止になるということで、抗菌性飼料添加物にとって非常に厳しい規制となりました。これにより硫酸コリスチン、バージニアマイシン、リン酸タイロシン、テトラサイクリン系薬の指定が取り消されています。目標5:研究開発では、抗菌性飼料添加物に頼らない飼養管理について技術的な検証を開始しました。最後に目標6:国際協力では、アジア各国の担当者を対象とした技術研修会やセミナーを開催して、この分野のアジアのリーダーシップを発揮しています。

一方、前アクションプランには、成果指標として数的な目標値も掲げられました。健康家畜の糞便から分離した大腸菌については、使用量の多いテトラサイクリン耐性率を2020年度に33%以下にすることと、医療上重要な第三世代セファロスポリン系薬とフルオロキノロン系薬の耐性率をG7各国とほぼ同水準にすることです。では2012年から2020年の大腸菌の耐性率の推移を見てみましょう(図1)。まずテトラサイクリン耐性率ですが、ほぼ横ばいで牛由来大腸菌以外は33%を超えており、目標に到達できませんでした。また、第三世代セファロスポリン系薬であるセフォタキシム(CTX)とフルオロキノロン系薬であるシプロフロキサシン(CPFX)耐性率は、2016年以前から低いレベルで推移しており、鶏由来大腸菌以外で目標値に到達しています。なお、前アクションプランにおける成果概要は、内閣府2)および農林水産省3)のWEBサイトで詳しく紹介されているので参考にして下さい。

これらの前アクションプランの成果を踏まえて、改訂アクションプランが作成され公表されました2)。改訂アクションプランの内容を紹介すると、目標は6つで前アクションプランを踏襲しており、内容として前アクションプランで改善の乏しい課題や新たに生じた課題が取り上げられています(図2)。まず、目標1:普及啓発・教育ですが、前アクションプランで8年間に渡り様々な普及啓発活動をしてきましたが、一般の方のAMRに関する認知度は必ずしも高いものではありませんでした。また、抗菌薬の使用者である臨床獣医師や畜産農家の方の認知度も高まっているとはいえない状態です。したがって、改訂アクションプランでは前アクションプラン以上に普及啓発活動が最重点項目であると思います。普及啓発を推進するツールの作成にとどまらず、それが現場にまで浸透するように努力することが必要です。獣医師に対しては、卒後臨床教育における抗菌薬の適正使用に関する研修プログラムの実施や、講習会や研究会の充実が記載されています。また、家畜生産者、養殖業者などを対象とした講習会・研究会の実施や、獣医療現場や生産現場での普及啓発・指導を徹底すると述べています。しかし、これらは前アクションプランでも取り上げていた項目であり、改訂アクションプランでは如何に現場で徹底できるかにかかっていると思われます。改訂アクションプランで特に目についたのは、獣医療における感染症の適切な管理を行う資格認定機関による認定資格の創設を検討するとなっていることです。これは個人的に以前から、現場での抗菌薬の適正使用を推進する医療における感染管理医師(ICD)の動物版(感染管理獣医師)の創設を願っており、今後の進展に期待したいと思います。

 次に目標2:動向調査・監視ですが、愛玩動物の薬剤耐性モニタリングを世界に先駆けて実施した前アクションプランの成果を背景に、動物分野における薬剤耐性モニタリング体制(JVARM)をさらに充実・強化させることです。今回は農場ごとの抗菌薬の使用量を把握するための体制を整備することになっています。これまでの国全体での抗菌薬の使用量成績以上にきめ細かな慎重使用を指導する上での情報が収集されるものと期待されます。また、検査手法に関しては、薬剤耐性遺伝子のデータベースを充実させ、薬剤耐性の変化や拡大の予兆を的確に把握する体制を取るとされています。さらにこれまで不十分とされていたヒト、動物、環境に関する統合的なワンヘルス動向調査の実施が取り上げられています。特にこれまでデータが不足していた食品や環境に関する動向調査・監視に関する調査研究を実施することになっており、将来的にワンヘルス動向調査体制が現実味を帯びてきました。目標3:感染予防・管理ですが、基本は感染症を予防することで抗菌薬の使用機会を減らすことに繋がることを周知・徹底することです。そのために飼養衛生管理基準の遵守のさらなる徹底や適切なワクチン接種や畜水産及び獣医療関連施設における感染予防・管理の考え方の普及・推進を図ることになっています。これには前述の感染管理獣医師の果たすべき主な役割であると思います。勿論、新規ワクチンや免疫賦活化剤などの開発・実用化を推進することも重要です。目標4:適正使用では、これまで作成されたツールを有効に利用して、臨床獣医師や生産者の指導を徹底することになっています。また、これまで作成されていない抗菌性飼料添加物の適正使用に関するリーフレットを作成し、普及することとされています。目標5:研究開発では、新たに導入したゲノム解析に基づいた薬剤耐性の発生・伝播機序の解明に向けた研究を推進することが述べられています。得られたゲノムデータは動物医薬品検査所において開発したゲノムデータベース(J-VEG)に収載し、医療分野のデータベースと連携して対策に役立てるとされています。いよいよ薬剤感受性試験による表現型の調査手法から、世界的な流れであるゲノム解析に検査方法が移行していく過渡期に差し掛かっていることを実感させます。目標6:国際協力では、これまで同様に国際機関による薬剤耐性(AMR)対策に関する国際協力、特にアジア地域に対する国際協力の推進の支援を推進します。

 一方、改訂アクションプランでは前アクションプランに引き続き、具体的な数値での成果指標を設定しています(図3)。今回の特徴としては、耐性状況や衛生管理が畜種ごとで異なり、課題への対応の成果の指標とするため、畜種別に設定することになりました。2027 年までに大腸菌のテトラサイクリン耐性率は、牛で20%以下、豚は 50%以下、鶏は45% 以下に低下させます。2027年までに大腸菌の第3世代セファロスポリン耐性率を、牛で1%以下、豚で1%以下、鶏で5%以下に低下させます。2027年までに大腸菌のフルオロキノロン耐性率を、牛は1%以下、豚は2%以下、鶏は15%以下に低下させます。また、前アクションプランで抗菌薬の使用量の削減目標が設定できず、結果としてテトラサイクリンに対する目標耐性率に達しませんでした。改訂アクションプランでは、2027年までに畜産分野の動物用抗菌薬の全使用量を2020年の水準から15%削減することにしました。さらに、2027年の畜産分野の第二次選択薬(第3世代セファロスポリン系薬、15員環マクロライド系薬(ツラスロマイシン、ガミスロマイシン)、フルオロキノロン系薬、コリスチンの全使用量を27トン 以下に抑えることになりました。

以上のように、改訂アクションプランでは、前アクションプランで実施が不十分であった課題を強化するとともに、あらたに抗菌薬の削減目標を明確に設定したことが特徴として上げられます。中でも動物に使用される抗菌薬の削減目標を設定したことは、確実に耐性率の成果指標を達成するという政府の意思の表れとして高く評価されます。前アクションプランでは、野心的な数値目標を掲げて医療分野とともに動物分野でも積極的に対策を推進してきました。最近、世界各国で実施されるAMR対策の国別ランキングが公表されました4)。2020-2021年に実施されたAMR対策について54の指標をもとに評価された結果、日本は欧米の先進国に並んで総合で6位となりました。これは動物分野での取り組み成果も勘案された結果であり、これまでの方向性は間違いなかったことを実感します。ただ、まだまだ末端での抗菌薬や薬剤耐性菌の認知度が広まっていないことも事実であり、抗菌薬の使用現場で指導的な立場にある獣医師のさらなる活躍に期待したいと思います。

1)Antimicrobial Resistance Collaborators: Global burden of bacterial antimicrobial resistance in 2019: a systemic analysis. Lancet 399:629-655, 2022.

2)内閣府:薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン(2023-2027)

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/infection/activities/amr.html

3)農林水産省:動物に使用する抗菌性物質について

動物に使用する抗菌性物質について:農林水産省 (maff.go.jp)

4)Patel J et al.: Measuring the global response to antimicrobial resistance, 2020-21: a systematic governance analysis of 114 countries. Lancet Infect Dis January 16, 2023.

https://doi.org/10.1016/

 

図1.と畜場及び食鳥処理場由来大腸菌の耐性率の推移

図2.薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン(2023-2027)概要

図3.薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン(2023-2027)成果指標

 

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